2016.04.18開業準備
クリニックの場合、収入源は基本的に診療報酬となるわけですから、同じ数の患者に同じ内容の診察・治療を行えば、収入は都会でも地方でも同じです。それならば、より多くの患者数を見込める地域に開業する方が収入は見込めます。
しかしここでの問題は、患者数の見込みを立てるエリアをどれくらいの範囲とするか、という点です。
都会の場合、エリアは小さくても、それなりに患者数は多くなることが予測されます。ただし、同じような治療ができるクリニックがそのエリア内にあるかどうか、「ある」場合は既存のクリニックの評判はどうかという点も、比較検討の対象とする必要があります。
一方、地方の場合は、エリアをかなり広くして考える必要があります。診察・検査・治療の内容で特徴的なもの、例えばクリニックでも先端医療が提供できるとか、最新の検査装置を備えているなどの条件が、すべて同じクリニックを探すのは難しいでしょう。しかしそういった条件を加算しなくても、クリニックの経営に必要な患者数を獲得するためには、それなりの人口が必要ですので、かなり広い範囲に対する検討が必要となります。
一方、地方で開業する場合は、経営の形態を考える必要があります。地方でもそれなりに大きな都市であれば、駅前のテナント経営でも大丈夫かもしれません。しかし、地方でこれが可能となるのはほんの一部の地域であり、基本的には駐車場を完備した、戸建てクリニック経営の方が現実的です。駅前のテナントだったとしても、提携駐車場がすぐ近くにあるかどうかで、獲得できる患者数が大きく変わってくることがあります。
また、既存の医療機関との関係でも、都会と地方では大きな違いがあります。
都会の場合、クリニックの入れ代りが比較的激しくなるエリアもあります。この場合は、淘汰されていく条件や期間など、予め綿密な調査を行うことをお勧めします。
一方の地方の場合、それまでに築き上げられている「地域医療のネットワーク」の中に、上手く入り込むことを検討する必要があります。特に地方の中核病院を中心としたエリアの場合、その中核病院との関係性も、いずれクリニック経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
一方の地方の場合、次の理由により、開業までに必要な資金が高額となることがあります。
・駐車場まで完備する場合は、それなりに大きな土地を購入する必要がある ※借地を利用する場合は、この限りではありません
・大病院などへの患者
・紹介が難しい地域では、開業当初からある程度の検査・医療機器を備えておく必要がある
特に高齢者が多い地域では、移動手段を確保するのが難しい高齢者も多く、中核病院などへの患者紹介が難しいケースも多くみられます。患者数を確保するためには、ある程度の精密検査ができるよう、開業当初から準備しておく必要もあるのです。
都会の場合、地方都市と比較し、従業員に対する賃金を高く設定しないと、人が集まりません。
基準としてまず考えるのは、厚生労働省が公表している、地域ごとの「最低賃金」です。一例を挙げてみましょう。
高い地域 | 最低賃金 | |
---|---|---|
1 | 東京都 | 888円 |
2 | 神奈川県 | 887円 |
3 | 大阪府 | 877円 |
・低い地域:高知県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、沖縄県(すべて677円)
このように、もっとも高い東京都と、もっとも低い6件では、最低賃金に221円の開きがあります。仮に事務職などをパート契約とし、最低賃金で雇用した場合、
221円 × 1日7時間労働 × 24日 = 37,128円
1カ月あたりの給与が、1人あたりおよそ4万円の開きがあります。最低賃金で考えてもこれだけの差が出ますし、クリニックの従業員であれば有資格者などそれなりにデキる人員を確保しなければなりませんので、最低賃金で雇用するのは難しいと考えて良いでしょう。
また、日本看護協会による調査によると、都道府県別看護師初任給(基本給)の最高は千葉県、最低は山口県でしたが、ここでも月額4万円弱の開きがあります。新人看護師の初任給ですらこれだけの開きがあるわけですから、クリニックの経験者を雇用したい、あるいは標榜する科の経験者を雇用したい、という場合は、より多くの開きが出ると考えて良いでしょう。
より質の良い従業員を確保するためには、給与体制も整えておく必要がありますが、従業員1人あたりおよそ4~5万円の開きは、クリニック経営上、きちんと考えていく必要があります。単純に考えると、従業3人で月に15万、年間で180万円の収入を、都会では余計に獲得する必要があるのです。同じ地方のエリアの中でも、賃金にも差を付ける必要がありますから、患者数獲得と併せて、十分にシュミレーションする必要がありそうです。